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労働者への労働条件の明示は使用者の義務
労働基準法は第十五条で「使用者は労働契約の締結に際し、労働者に対して労働条件を明示しなければならない」と規定しており、労働条件の明示は使用者の義務です。労働者の雇用に当たって、労働条件が明確に示されず雇用契約を締結した場合には、労働者は予期に反した低労働条件で労働を強いられたり、またやむを得ず悪条件下で労働しなければならないというリスクを負う可能性があります。そうなると労働者の使用者に対する不信感は募り、退職という判断に至る場合も考えられます。そのような誰も望まない結果を回避し、労使の信頼関係を構築するための措置として明確な労働条件を提示することは非常に重要なことです。
明示すべき労働条件の範囲については、施行規則に具体的に定められており、その中でも必ず明示しなければならない絶対的明示事項、使用者がその事項に関して定めをした場合に明示しなければならない相対的明示事項、さらには省令で定める書面の交付等の方法によって明示しなければならない事項といった明示の方法に制限を課した事項のように細かく分類して明示することを求めています。
これに違反して明示すべき範囲の労働条件を明示しなかったり、省令で定める事項について定められた方法で明示しない場合には、30万円以下の罰金に処せられる可能性がありますので、怠ってはなりません。
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Point 01
絶対的明示事項と相対的明示事項
○絶対的明示事項:使用者が労働者に対して必ず明示しなければならない労働条件
労働基準法施行規則第5条第1項1号~4号に規定 (下表参照)
○相対的明示事項:使用者がその事項に関して定めをした場合に明示しなければならない労働条件
労働基準法施行規則第5条第1項4の2号~11号に規定(下表参照)
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Point 02
厚生労働省令で定める明示方法とその明示事項
○厚生労働省令で定める方法は、書面(一般的に労働条件通知書)の交付とすると規定されています。
ただし、労働者が希望した場合には、
①ファクシミリを利用して送信する方法
②電子メールその他のその受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信の送信の方法(当該労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限る。)とすることができる。
とされています。
○書面の交付等で明示する事項
労働基準法施行規則第5条第1項1号~4号(昇給に関する事項を除く)に規定(下表参照)
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Point 03
労働条件通知書と雇用契約書
○労働条件通知書は記載のとおり、労働基準法によって作成・労働者への交付が義務づけられています。これに対して雇用契約書は諾成契約として当事者の合意の意思表示のみで成立するものです。口約束でも取り交わすことができ書面の作成などの形式を備える必要はないとされています。したがって労働条件通知書を作成・交付すれば雇用契約書は必ずしも作成しなくてもよいと言えます。ただし、合意内容を明確化し、当事者間のトラブルを避けるために書面を作成する会社も多いことと思います。しかし、記載事項として一般的には同様の労働条件を記載した2通の書面を作成する必要はあるのでしょうか。
雇用契約書の作成は義務付けられていないとされていますが、その名のとおり使用者から一方的に交付される労働条件通知書だけでは、労働者との合意を証明することはできないため注意が必要です。
雇用契約書は当事者双方が署名・押印することで、双方の合意を証することができるため、トラブル発生時に言った言わないの水掛け論を回避するための証拠とすることができます。ここに使用者から一方的に交付される労働条件通知書との違いがあり、雇用契約書を作成することのメリットがあります。作成義務はないものの作成した方がよいと言えるでしょう。
上記のとおり、明示すべき労働条件の項目や明示方法は、労働基準法施行規則第五条に定められており、その項目の中でも必ず明示しなければならない絶対的明示事項と使用者が定めをした場合においては明示しなければならない相対的明示事項に分類され、さらに書面の交付等*1の方法で明示しなければならないものがあります。以下に項目ごとの明示分類について一覧表にまとめていますので、ご参照ください。
*1:労働者が希望した場合は、FAXや電子メール等の方法で明示することができるとされています。(ただし、記録を出力することにより書面を作成することができるものに限られます。)
法改正によって労働条件明示事項が追加されています。
労働基準法施行規則第五条の改正
2024年4月1日施行
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# 01
第一項第一号の三に(カッコ)書の追加
○就業の場所及び従事すべき業務に関する事項に「(就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲を含む。)」の記載が追加がされました。(就業場所・業務の変更の範囲の明示)
全ての労働契約の締結と有期労働契約の更新のタイミングごとに、「雇い入れ直後」の就業場所・業務の内容に加え、これらの「変更の範囲」*1について明示が必要となりました。*1「変更の範囲」とは将来*2の配置転換などによって変わり得る就業場所・業務の範囲をいい、*2当該労働契約の期間中における変更の範囲を意味し、当該契約が更新された場合にその更新後の契約期間中に命じる可能性がある就業の場所及び業務については、明示が求められるものではない。
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# 02
第一項第一号の二に(カッコ)書の追加
○有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項に「(通算契約期間(労働契約法(平成十九年法律第百二十八号)第十八条第一項に規定する通算契約期間をいう。)」又は有期労働契約の更新回数に上限の定めがある場合には当該上限を含む。)の記載が追加されました。(更新上限の明示)
有期労働契約の締結と契約更新のタイミングごとに、更新上限(有期労働契約の通算契約期間または更新回数の上限)の有無と内容明示が必要となりました。併せて、雇止め告示(有期労働契約の雇止めや契約期間について定めた厚生労働大臣告示)の改正によって、更新上限を新たに設け、または短縮する場合にはその理由を有期契約労働者にあらかじめ説明することが必要とされています。
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# 03
第五項、第六項を新設
○有期労働契約の締結時の無期転換申込機会の明示
「無期転換申込権」が発生する更新のタイミングごと*3に無期転換を申し込むことができる旨(無期転換申込機会)を明示することが必要になりました。
○無期転換後の労働条件の明示
「無期転換申込権」が発生する更新のタイミングごとに*3無期転換後の労働条件を明示することが必要になりました。
併せて、雇止め告示の改正によって、「無期転換申込権」が発生する更新のタイミングごとに、無期転換後の賃金等の労働条件を決定するに当たって、他の通常の労働者とのバランスを考慮した事項*4(業務の内容、責任の程度、異動の有無・範囲等)について、有期契約労働者に説明するように努めることとされました。
*3初めて無期転換申込権が発生する有期労働契約が満了した後も有期労働契約を更新する場合は、更新のたびに、今回の改正による無期転換申込機会と無期転換後の労働条件の明示が必要。
*4労働契約法第三条第二項において、労働契約は労働者と使用者が就業の実態に応じて均衡を考慮しつつ締結又は変更すべきものとされている。
他の法令による労働条件明示規定 労働基準法以外の法令おいても労働条件の明示が規定されている
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# 01
労働契約法第四条(労働契約の内容の理解の促進)
労働契約法第四条は、労働契約の理解の促進について規定しているが、これは、労基法第十五条第一項では労働条件について契約締結時の場面での明示が義務づけられているのに対して、締結時以外においても労働契約の締結当事者である労働者及び使用者が契約内容を自覚することにより、契約内容があいまいなまま労働契約関係が継続することのないようにすることが重要との趣旨から規定されたものです。
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# 02
職業安定法第五条の三(労働条件の明示)
職業紹介事業者、労働者の募集を行う者、募集受託者、労働者供給事業者が、それぞれ職業紹介、労働者の募集、労働者供給を行うに当たって、求職者、募集に応じて労働者になろうとする者又は供給される労働者に対し、労働条件を明示し、また、求人者や労働者の供給を受けようとする者が、職業紹介事業者や労働者供給事業者に対し、労働条件を明示しなければならないことを規定したものです。
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# 03
短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(労働条件に関する文書の交付等)
使用者が短時間労働者や有期雇用労働者を雇い入れるに当たって、労働条件に関する事項のうち労働基準法第十五条第一項に規定する事項以外のもの*1を文書の交付等で明示しなければならないことを規定したものです。
*1 1.昇給の有無、2.退職手当の有無、3.賞与の有無、4.短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口*2を明示しなければならないと省令で規定。
*2法第十六条で事業主はその雇用する短時間・有期雇用労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備しなければならない。とされています。
労働条件の明示に関しては、複数の法令おいて規定されています。それぞれの相違点は基準法が「労働契約の締結に際し」と記述されているのに対して、労働契約法では「労働契約が締結又は変更されて継続している間の各場面が広く含まれるものである」と通達され、職業安定法が「労働者の募集時点」を規定していることから、それぞれ想定している労働条件の明示の場面が異なっているようです。したがって、労基法だけを見れば「労働契約の締結に際し」と明示すべき時期を労働契約を締結する際としているのですが、他の法令を見ると結局はあらゆる場面での条件の明示が必要ということに帰結することになります。
労働条件の明示に関する疑問点等はお気軽に
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労働条件の明示は、働く上で非常に重要な要素です。労働基準法では、労働者が自らの権利を正しく把握し、納得して働くことができるように、各種労働条件を明示することが義務付けられています。この明示によって、労働者は自身の賃金、労働時間、休暇などの情報を的確に理解し、安心して働くことができます。特に、労働条件の明示とその契約内容の履行は、労働者と使用者との間の信頼関係を構築するために欠かせないものであり、快適で持続可能な職場環境の確保にも寄与します。
具体的に、労働基準法で定められた明示事項には、賃金に関する詳細、労働時間に関する事項、休暇や休日の取り扱いなどが含まれます。労働者はこれらの情報を理解することで、自身のワークライフバランスを確保できるようになり、安定した暮らしを実現することができます。また、具体的な条件を明示されることで、予期しない低労働条件や劣悪な労働条件を強いられるといったトラブルを避けることが可能です。
具体例を挙げると、賃金の支払日や支給方法、日々又は月間の労働時間数といった具体的な情報が明示されることにより、労働者は自身の収入や就業時間を具体的に把握することができます。また、休日や休暇についても、その取得方法や取得可能なタイミングに関する情報が提示されることで、労働者は安心して心身を休めることができます。このように、労働条件が明示されることにより、労働者は安定した生活を送るための判断材料を持つことになり、安心して仕事に取り組むことができるのです。
逆に、労働条件が明示されない又は不明確まま働くことになると、さまざまなトラブルが生じる可能性があります。例えば、給与の未払い、労働時間の長時間化、休日や休暇が取りにくくなるといった問題が発生することがあります。これらのトラブルは、労働者の心身に負担を与え、大きなストレスの原因となり得ます。だからこそ、労働条件を明示することは、トラブルを未然に防ぐためには不可欠です。
このようなトラブルを防止するために労働基準法は、第十五条第二項において、使用者が契約締結の際に示した労働条件と実際の労働条件が相違する場合においては、労働者は即時に労働契約を解除することができるとし、民法における一般的な労働契約の解除の制限にかかわらず、労働者に労働契約の即時解約権を与え、さらに第三項において、就業のために住居を変更した労働者が、労働条件の相違を理由に契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合には、使用者は労働者の帰郷のために必要な旅費(帰郷するまでに通常必要とする一切の費用との解釈)を負担しなければならないとして、労働者の保護を図っています。
私たちアクサリス社会保険労務士事務所では、労働条件の明示については使用者及び労働者双方の関係性にとって大変重要な事項と考えています。労働条件の明示について疑問や不安を感じている方々に対して、サポートを提供しています。経験豊富な社労士が、労働条件の具体的な明示方法や、どのように使用者と労働者がコミュニケーションをとるべきかについてアドバイスいたします。初回の相談は無料ですので、ぜひお気軽にご相談ください。労働者の権利を守り、安心して働ける職場形成の手助けをいたします。
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